映画「バイス」<感想・解説・ネタバレあり>

MOVIE


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アカデミー賞8部門ノミネートされた話題作、映画「バイス」を鑑賞しました。気になった点と感想をまとめます。ネタバレを含むので鑑賞後にご覧下さい。

映画情報

原題:Vice
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年4月5日
監督:アダム・マッケイ
脚本:アダム・マッケイ
主演:クリスチャン・ベール

あらすじ

1960年代半ば、酒癖の悪い青年チェイニーがのちに妻となる恋人リンに尻を叩かれ、政界への道を志す。型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドのもとで政治の表と裏を学んだチェイニーは、次第に魔力的な権力の虜になっていく。大統領首席補佐官、国防長官の職を経て、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任した彼は、いよいよ入念な準備のもとに”影の大統領”として振る舞い始める。2001年9月11日の同時多発テロ事件ではブッシュを差し置いて危機対応にあたり、あの悪名高きイラク戦争へと国を導いていく。法をねじ曲げることも、国民への情報操作もすべて意のままに。こうしてチェイニーは幽霊のように自らの存在感を消したまま、その後のアメリカと世界の歴史を根こそぎ塗りかえてしまったのだ。
引用元:https://longride.jp/vice/story.html

チェイニー副大統領の経歴

“ディック”リチャード・ブルース・チェイニー(Richard Bruce “Dick” Cheney)は、1941年1月30日生まれで現在78歳。映画の冒頭では酒に溺れたダメな学生として描かれていますが、実際にアメリカの大学ランキングでも上位に入るイェール大学中退し、100位以下のワイオミング大学を卒業しております。その後政治の世界に入ってからは史上最年少・34歳の若さでアメリカ合衆国大統領首席補佐官となり、下院議員を6期務め、ジョージ・H・W・ブッシュ政権下で国防長官に就任、その後政界を離れ世界最大の石油掘削機の販売会社ハリバートンで1995年-2000年までCEOを務めていました。その後ジョージ・W・ブッシュ政権下で2001年1月20日〜2009年1月20日まで副大統領の役に就いていました。2007年2月20~22日に来日もしており、当時の安倍総理大臣、塩崎官房長官、麻生外務大臣との会談、天皇陛下による御引見、横須賀基地訪問、拉致被害者家族(横田夫妻)との会談等を行なっています。

タイトルの意味

「Vice」は「副」という意味があり、「vice‐president」でそのまま「副大統領」となりますが、「Vice」には「悪」や「邪悪」と行った意味もあります。チェイニー副大統領は在任中は精力的な活動から「史上最強の副大統領」と呼ばれていた一方、2008年にCNNが行った世論調査によれば「史上最悪の副大統領」だとする意見が23%占めており、彼の表と裏をうまく表現したタイトルになっています。また映画は当初「Backseat」になる予定でした。「つまらない地位」という意味になるのですが、アメリカでは「backseat driver」を「後部席に座っているのに運転している人に口出しをする人」と言う意味から派生して「あれこれと口出しをする人」という意味で使われており、このタイトルでも面白いですね。

クリスチャン・ベールの役作り

今回主演を務めチェイニー副大統領役を演じたクリスチャン・チャールズ・フィリップ・ベール(Christian Charles Philip Bale,1974年1月30日)は、イギリス出身のアメリカ人の俳優。個人的にはダークナイト三部作のバットマン役のイメージが強かったので。この映画を見た時、「え、これがクリスチャン・ベール!?」と大変驚いた。彼はこの役作りのため半年かけて20kg増量しているのだ。インタビューでは目標体重を決めずチェイニーの青年期から高齢期までを演じられる見た目を目指したとのこと。彼はこれまでにも役作りのために体重の増減行なっており、「「マシニスト」では、1年間寝ていない主人公を演じるために1日ツナ缶1つ・リンゴ1個だけの食事で過ごし55kgまで減量、その後「バットマン・ビギンズ」では体重を戻し体を鍛え上げ86kgまで増量するなどを行なっており、日本のテレビ番組「ザ・ベストハウス123」の「激やせ激太り自由自在!大変身を遂げた俳優BEST3」では第1位に選ばれている。しかし体への負担もあり、家族からも心配されているそうで、極端な体重の増減は今後はしないと発言している。ちなみに彼は声の出演としてはアメリカ版『ハウルの動く城』ではハウル役を担当している。

釣りと心臓の意味

この映画では象徴的なモノとしてチェイニーの趣味である「釣り」フライフィッシングが劇中やエンドロールで描かれています。これは本業で権力を狙うチェイニーの姿と重なります。2000年の大統領選に臨むジョージ・W・ブッシュから副大統領の打診があった際、チェイニーはブッシュの「大統領になりたい理由」が父ジョージ・H・W・ブッシュに認められたいことが最大の動機であることを見抜き、お飾りと言われていた副大統領に権力を持たせるよう、ブッシュを釣り(操り)、権力を集中させるよう動きはじめます。そしてチャンスが来るまでじっくり待ち続け、彼にとって大きな魚が「9.11」ということでした。見事にこのチャンスを釣り上げたチェイニーは影の帝王と呼ばれるまでブッシュ政権下で存在感を増していきました。
また、映画でも描かれていたようにチェイニーは2012年71歳の時に首都ワシントン郊外のバージニア州の病院で心臓移植の手術を受けています。移植手術までに20カ月以上、提供者を待っていたとのことです。劇中では度々登場するナレーター役の男性が心臓を提供したように描かれています。これはアメリカ国民に対してイラク戦争をうまく正当化したように、アメリカの一般的な人々を釣り、心臓 =ハート(感情)を奪ったという比喩にも見えます。ちなみに心臓を提供した男性を演じたのはジェシー・プレモンスという俳優でドラマ「ブレイキング・バッド」のトッドなので見た覚えがある人もいるかもしれません。

エンドロールの曲

エンドロールで流れる曲は「ウェストサイド物語 – America」です。アメリカをたたえる女たちとそれをからかう男たちが互いに主張を言い合う歌なのですが、この映画では女性の歌のパート=アメリカをたたえる歌詞をつなぎ合わせた内容になっています。この映画でアメリカの負の部分や、チェイニーに対しての色々な感想を持った人がいると思いますが、そう思うように、我々自身釣られているんだぞ、というメッセージなのかもしれません。

感想

まず主役のチェイニーがとても興味深い映画でした。物静かで欲もなさそうで、決して秀才でもなかった彼が、なぜ世界的にも(良い悪いは別にして)多大なる影響を与える人物になったのか。映画を見る限り最大の動機は奥さんのようです。リン・チェイニーは秀才で目標もそれを目指す意思もとても強い女性でした。自身の欲がなかったからこそ、チェイニーの空のハートに、「彼女のために事を成す」という行動原理が100%注ぎ込まれて、彼を突き動かしたように思えます。また、映画の途中でエンドロールが流れ、「ここで終わっておけば・・・」と思われた方も多いと思います。映画も人生も良い時、悪い時の波が存在し、結局どこで切り取るかで見え方も変わることを教えてくれるシーンとして、とても印象深く面白かったです。